令和6年より相続空き家の譲渡特例が一部改正!相続不動産の売買はタイミングが大事!?
空き家となった故人の自宅を相続で取得した後に売却した場合、一定の要件を満たすと所得税の負担を軽減できる特例があることをご存じでしょうか?
昨年分の確定申告でもお手伝いさせていただきましたが、数百万円単位での税負担の軽減につながったケースもあり、適用要件を満たす場合のメリットは少なくありません。
その特例は、『被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例』といいますが、ここでは『相続空き家特例』と略して記載させていただきます。
旧耐震基準で建築された老朽化した空き家の増加抑制を目的として、平成28年4月1日からスタートしたこの制度ですが、令和5年度税制改正により令和6年から一部制度の改正が予定されています。
そもそも『相続空き家特例』って何?
相続または遺贈により取得した被相続人(亡くなった方)の居住用家屋またはその敷地を売却した場合に、一定の要件に該当するときは、譲渡所得(売った金額から取得費や譲渡費用を引いたもうけの部分)の金額から最高3,000万円まで控除することができます。主な要件としては下記のものがございますが、物件等の状況によりその他の確認事項もございますので、ご検討の際は税理士へのご相談をおすすめいたします。
① 取得した方が相続人であること(包括受遺者も含みます)
② 家屋とその敷地の両方を取得すること
③ 令和5年12月31日までの譲渡であること
→ 改正により令和9年まで4年延長
④ 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること
⑤ 譲渡対価が1億円以下であること
⑥ 昭和56年5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準の家屋)であること
⑦ 区分所有建物登記がされている家屋でないこと
⑧ 売却先(買主)が第三者であること
⑨ 相続開始直前に被相続人が一人で居住していたこと(老人ホームの場合は別途要件あり)
⑩ 家屋と敷地の売却の場合は、耐震リフォームを行った後に譲渡すること(耐震性がある場合は不要)
(耐震基準適合証明書等の提出が必要)
→ 改正後は、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震リフォームを行うこと
⑪ 敷地のみの売却の場合、取り壊した後に譲渡すること
→ 改正後は、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに取り壊すこと
⑫ 相続開始から譲渡又は取り壊しまで空き家であること
⑬ 家屋取り壊し後の敷地を事業・貸付・居住目的に利用しないこと
また、確定申告の際には、不動産の所在する役所が発行する『被相続人居住用家屋等確認書』を添付する必要がありますので、事前に役所への申請必要書類を準備し、確定申告時期までに申請して確認書を取得しておくとスムーズです。
令和6年以降、相続人3人以上で共有相続している場合の特別控除が2,000万円に減額
《設例》
父の逝去後、母(令和5年2月20日逝去)が1人で住んでいた実家を、長男、長女、二男の相続人3人で1/3ずつ共有で相続した。令和5年9月に450万円の費用をかけて家屋を解体。10月に建築会社と売却金額8,100万円で土地の譲渡契約を締結、11月に決済し引き渡した。なお、母の相続財産が基礎控除(この場合4,800万円)を超えているため、相続税の申告が必要であった(申告期限は令和5年12月20日)。長男は自己の持ち家に、長女は配偶者の持ち家に居住しており、二男は10年以上前から賃貸マンションに居住している。
◆ 土地の売却金額 8,100万円(相続人1人あたり2,700万円)
◇ 解体費 450万円(相続人1人あたり150万円)
◇ 測量費 60万円(相続人1人あたり20万円)
◇ 取得費不明 (概算取得費を使って計算する場合)
~ 相続人1人あたりの譲渡所得 単位:万円 ~
売却金額 2,700 -( 概算取得費 2,700*5% + 解体費150 + 測量費20 )= 2,395
『相続空き家特例』が適用できる場合は相続人1人あたりそれぞれ3000万円まで控除されるため、
相続人3名とも譲渡所得は0となり、譲渡所得税は課税されません。
令和6年1月1日以降の譲渡契約締結及び引き渡しの場合は、令和5年度税制改正により、
相続人が3人以上である上記のようなケースでは、特別控除が2,000万円に減額されますので、2,395万から2,000万円を控除した395万円が譲渡所得として課税の対象となります。
※その他、仲介手数料等も譲渡費用となりますが、ここでは割愛させていただきます。
なお、確定申告書に添付する『被相続人居住用家屋等確認書』は、特例の適用を受ける相続人それぞれが役所に申請し、確認書の交付を受ける必要がありますのでご注意ください。
今回の設例では、長男、長女、二男の3名それぞれ申請が必要ですね!
相続税申告における『小規模宅地等の特例』との関係に注意!!
相続税の申告が必要な場合において、自宅などで『小規模宅地等の特例※』の適用ができる可能性があるときに、相続税の申告期限までにその特例の対象となりうる物件を売却すると、その物件について同特例の適用要件を満たさなくなるケースがあります。
※330㎡までの居住用宅地の相続税評価額を80%減額することができるなど、相続税負担の軽減につながる特例
今回の設例では賃貸住まいの二男(いわゆる家なき子)に『小規模宅地等の特例』の適用の可能性がありましたが、申告期限の令和5年12月20日までに土地を売却をしているため、適用要件の1つである『申告期限までの保有継続要件』を満たさないこととなり、相続税申告においてその適用はできないことになります。
まとめ
不動産の売却については、相手があることなどもあり、税負担軽減ばかりを重視して売却活動を進めることがかならずしも良い結果につながるとは限りませんが、事前に売買の窓口となる不動産会社の担当者や各専門家(税理士 ⇒ 所得税・相続税、司法書士 ⇒ 相続登記・所有権移転登記、土地家屋調査士 ⇒ 測量)と売却の進め方を検討しておくことで、売却活動と税負担軽減、双方において最良の選択をすることが可能になる場合もございます。特に相続税申告が必要な方におかれましては、相続した不動産を売却される際、事前に所得税・相続税への影響について税理士にご相談されることをおすすめいたします。