相続税対策のセオリー、暦年贈与が廃止される!?
令和3年12月10日、与党による令和4年度税制改正大綱が発表されました。
今回の税制改正の動向、相続に関わる機会の多い業界の方々は、注視していた方も多いと思います。かく言う私もその一人なのですが、何が注目されているのか解説いたします。
相続税対策で一番に検討されている暦年贈与が廃止される!?
相続税対策でまず最初に検討されるいわゆる『生前贈与』、既に実行されている方も多いと思います。
今回発表された大綱の中で、その『生前贈与』に関する税制が見直される見通しであることが触れられています。
令和3年度に引き続き、令和4年度もその『生前贈与』に関する問題点が指摘されています。
生前贈与(暦年贈与)の効果と問題点
生前贈与の効果を①相続財産が2億円の場合と②3,500万円の場合で比較してみます。
※分かりやすくするために、家族構成を下記の通りとし生前贈与加算など諸条件を考慮せず簡略化していることをご了承ください。
家族構成:母と息子(1人)・父はすでに他界
(1)母の財産額 2億円の場合
①息子が負担すると想定される相続税
( 2億円 - 3,600万円(基礎控除))×40%(税率)-1,700万円(控除額)= 4,860万円
②贈与税の基礎控除額である年間110万円で息子に10年間贈与を実行した場合に想定される相続税
( 2億円 - 1,100万円(贈与合計)- 3,600万円)×40%-1700万円 = 4,420万円
③生前贈与実行前と実行後の相続税の比較
贈与実行前 4,860万円 - 贈与実行後 4,420万円 = △440万円 (節税効果)
(2)母の財産額 3,500万円の場合
①息子が負担すると想定される相続税
( 3,500万円 - 3,600万円(基礎控除))= 0円
※ 年間110万円の贈与をしても結局相続税がかからないため節税効果なし
上記のようなケースで比較しても分かるとおり、母の財産額によって、生前贈与の効果が異なるため、財産額が多い場合には積極的な生前贈与を行うことで相続税を節税する効果があるのに対し、財産額が少ない場合にはその効果がないケースもあり、いわゆる『富裕層』の相続税負担の回避に使われていることが指摘されていました。
なお、贈与税の基礎控除額である110万円にとらわれず、相続税と贈与税の税率差を利用して贈与額を調整することでより大きな効果が得られる場合があり、一般的に相続財産が高額な方にその節税メリットが出ることが知られています。
生前贈与加算 ~3年間の足し戻し期間がより長い期間に見直し!?~
生前贈与加算とは、亡くなった方から贈与を受けていた相続人がいる場合、その相続人が取得した相続財産に、亡くなる前の3年間に贈与を受けた財産を足し戻して相続税を計算するルールのことを言います。
(※ざっくり書いていますのでご了承ください)
医師から余命宣告を受けた場合などに駆け込み贈与をして相続財産を減らす、といったような相続税負担の回避ができないようになっています。
上記(1)のケースで生前贈与加算を考慮すると、母が亡くなる前の息子への3年間の贈与合計330万円が相続財産に足し戻され、息子が負担する相続税は4,552万円となり、過去3年分の贈与に対する節税効果はなくなります。
今回この亡くなる前3年間という足し戻しの期間についても見直しが検討されています。
諸外国の例を見ますと、アメリカは一生涯、ドイツは10年間、フランスは15年間の贈与額と相続財産額を一体で課税しています。
例えばこの期間が10年となった場合、上記(1)のケースでは、母が息子のために10年間贈与した金額がすべて相続財産に足し戻され、息子が負担する相続税は4,860万円となり、贈与実行前と結果的に同じになります。
このルールが改正された場合に、足し戻しの期間がどのくらいになるのか現時点では分かりませんが、現行の税制のような生前贈与の節税効果は得られなくなる見通しです。
令和4年度与党税制改正大綱の内容
今回の大綱では、暦年贈与や生前贈与加算に関する具体的な見直しの内容や改正時期については触れられていませんが、その問題点について下記のとおり指摘されています。
以下、令和4年度与党税制改正大綱より一部抜粋
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わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。このため、将来の相続財産が比較的少ない層にとっては、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている。
今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。
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令和3年度の与党税制改正大綱でも一部すでに触れられていましたが、赤字部分が今年追加されています。今回の文章からも与党の本気度を感じたのは私だけでしょうか。
贈与税の基礎控除の金額は、租税特別措置法第70条の2の4に規定されていますが、基礎控除額も含めて相続税・贈与税の制度が近い将来見直される可能性がありそうですね。
まとめ
これから生前贈与をご検討の方は、今後の税制改正の影響に留意して進めていただくことをおすすめいたします。具体的に実行される際は、税理士への相談もご検討いただければ幸いです。